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パルグレイブ出版社 ebook哲学部門
ダウンロード数トップ25%ランクイン
スタール夫人とフランスにおける政治的リベラリズム武田千夏(大妻女子大学)著
この本は2019年度のパルグレイブ出版社のebook哲学部門で
ダウンロード数がトップ25パーセントにランクインされました。
Profile
武田 千夏 (たけだ ちなつ)Chinatsu Takeda,Ph.D
大妻女子大学比較文化学部教授
takedachinatsuアットgmail.com
(アットを@に変えて使ってください)
専門 (English site click here)
- ― フランス近代史(政治、文化、思想の接点としての西欧史)
- ― フランス自由主義思想研究
- ― スタール研究
自己紹介
わたしはこれまでフランス自由主義思想、とりわけスタール夫人の政治思想とその19世紀フランス政治思想への影響について研究を重ねてきました。フランス自由主義思想とは立憲主義、個人の倫理的問題、ジェンダー、文化、マナー、風習などのさまざまな要素を含んでいます。またそこには英米の政治的伝統、ドイツ、イタリアなどの近隣諸国との知的交流の影響も伺えます。わたしはこの一見捉えどころのないフランス自由主義の成立および影響について研究を重ねてきました。
経歴
- 大妻女子大学比較文化学部教授(2014-)
- 東京大学社会科学研究所私学研究員(2011-2012)
- コロンビア大学大学院史学部客員教授(2006-2007)
- フランスのコンピューター、エレクトロニクス、自動化工学高等大学(ESIA)日本語非常勤講師(2001-2002)
- フランスのパリ高等社会科学研究員のポストドクトラル研究者(2001-2002)
- 日英仏同時通訳者(1986-2001)
学歴
- ロンドン大学ロイヤルホロウェー校大学院史学専攻ヨーロッパ近代史博士、Ph.D in European history
- パリ政治学院奨学生としてブラウン大学へ短期留学
- パリ政治学院卒業
- 上智大学外国語学部フランス語学科卒業
My Monograph
Mme de Staël and Political Liberalism in France (2018, Palgrave)
書評
- “In this elegant and lucid book, Chinatsu Takeda restores unjustly neglected thinker Germaine de Staël and her associative vision of politics to the history of French liberalism. It is essential reading.”
-Samuel Moyen, Professor of Law and History, Yale University, USA - “The liberal tradition in France is undergoing significant re-evaluation and this timely study of Germaine de Staël’s contribution to its development establishes both the importance of her political writing and the extent of her influence upon nineteenth-century successors. ”
-Malcolm Crook, Professor of French History, Keele University, UK - “Chinatsu Takeda’s well-researched book is a timely invitation to rediscover the richness of Germaine de Staël’s political thought and revisit the rich historiography of the French Revolution.”
-Aurelian Craiutu, Professor of Political Sciences, Indiana University, USA. - Palgrave Macmillan
- “Chinatsu Takeda, while undertaking to shed new light, is therefore a continuation of recent studies that have largely re-evaluated the historical and political scope of Staël’s thought. ” (translated from French). Gérard Gengembre
- (‘Tout en entreprenant d’apporter un éclairage nouveau, Chinatsu Takeda s’inscrit donc dans la continuité d’études récentes qui ont largement réévalué la portée de la pensée staëlienne sur les plans historique et politique.’ Gérard Gengembre)
- Gérard Gengembre, Francia Recensio, 2019-06-13
要約
今日スタールはフランス自由主義の誕生に貢献した思想家として知られています。しかしスタールの政治思想とは何かと改めて問われると明確な答えは即座に浮かんできません。それは彼女の政治思想がオーソドックスなスタイルではなく、様々な政治状況と適合する緩やかな気質もしくは枠組みのような性格を持つゆえ、具体的な政治状況に照らし合わせて理解する必要があるからです。本書ではスタールの思想の実践的側面を重視し、彼女の革命政治に対する具体的な問題意識が独自な自由主義的政治思想へと発展していったことを明らかにしました。
第一に、スタールは近代人としての「市民的自由の保障」を最も重視し、政治的自由をあくまで手段と考えました。彼女は近代人の市民的自由と最も矛盾する奴隷制こそが古代と近代を峻別する、とみなしました。同じ理由から彼女はアメリカの奴隷制度にも批判的でした。その結果この「近代人の自由」を保障するための制度として三権分立の原則による立憲主義を重視しました。同時に異なる社会階層の諸グループ間の対立と均衡によって自由を確保することも大切にしました。これが、彼女がアメリカではなくイギリスの立憲主義モデルにこだわった最大の理由です。
スタールは自身の政治的自由主義思想の大枠を恐怖政治後の1795年から5年間続いた保守的共和主義をめざした総統政府の時代に完成させました。当時の共和派の政治エリートとともに、スタールは「どうしたら社会的、政治的混乱を収拾させてフランス革命を終焉させることができるのだろうか」という共通の政治目的に心を砕きました。
その結果スタールは貴族主義と民主主義の要素が折衷されたユニークな保守的共和主義的政治モデルを提案しました。国政は貴族主義的原則、地方行政は民主主義原則により成り立ちますが、この二つの原則を有機的につなげるのが、イギリスの世襲貴族をモデルとした上院議員の存在でした。スタールは、国政において上院議員は下院と行政国家の間に立ち両者の均衡を図るバランサーとして機能する一方で、上院議員のメンバーの多くが普通選挙によって選出される地域行政の代表の役割も兼ねるべきである、と提案しました。彼らは地方と中央行政国家の間を有機的にとりもつとともに(貴族主義的原則)、地域行政においては物理的に顔をあわせつつ一般市民をリードする存在とみなされたのです。(民主主義的原則)。
スタールの第二の問題意識とは、フランス革命が引き起こした「社会の平準化」にどう対応すべきかというものでした。この問題意識は一部のリベローと保守派によって共有されたものでした。フランス革命によってモンテスキューが「自由の守り手」とみなした中間層つまり貴族階級は消滅し、一様に平準化された自由で平等な市民によって構成される新たな社会が誕生しました。水平な社会関係を重んじた「自由で平等な社会」において、それまで時間をかけて培われてきた有機的な社会階層間および市民間の社会的絆が断絶され、個人は強力な行政国家を目前にして孤立状態を強いられました。このような社会状態は市民的自由の保障からは程遠いどころか、実際に恐怖政治という政治的専制を生み出してしまいました。
恐怖政治はフランスの市民を社会崩壊の極みに追い込み、社会不信や猜疑心なども植え付けました。とりわけ庶民階級と政治エリートの間の社会的分断の問題は深刻でした。その結果、スタールは社会の一体感、つまり国民性を醸成することこそ議院代表制を安定化させるための最重要課題と考えました。そして彼女はこの目的のために王政の時代に社会階層の上から下までのフランス人をつなげていた中央集権的ロジックに支配されたフランス文化に注目しました。かつて王政のもとに反映した文化を弾圧するのではなく、これを革命後の民主主義社会において復活させることによって、文化を通じて市民の間の社会的紐帯を復活させることが急務である、と訴えました。
社会の統一性というテーマについて、スタールはイギリスの思想家たちの影響も多く受けました。E・バークは騎士道精神などの貴族、王侯文化が社会、経済上の貧富の差を凌駕して社会の凝固性を強める要素になりうる、と書きました。ヒュームは社会的紐帯としての節度を重視しました。スタールはフランス王政の貴族社会に特有な会話の技巧、都会的な社会風習や儀礼などをフランス革命後の市民社会に復活、一般化させることによって、異なる諸階級間に会話が復活してフランスの深刻な社会的分断を乗り越えることができると考えました。当初スタールはこの目的のために、作家が国家と国民の間のパイプライン(世論)となって共和主義的節度を文学の形で国民に感化させようとしました。
ナポレオン帝政の成立後、スタールの国民文化醸成へのアプローチはさらに進化していきました。『ドイツについて』(De l’Allemagne,1815)や『フランス革命についての考察』(Considérations sur les principaux événements de la Révolution française, 1818)の中でスタールは会話の技巧と政治の実践をつなげ、それを世論形成の契機としました。つまり旧体制の貴族社会に特有な会話の技巧を、政治エリートのイニシアティブのもとに地域行政に携わる全男性市民の間に伝搬させ、個々の市民の社会、政治的利害の相違について暴力ではなく対話を通じて調整を図り、社会の統一感を形成していくことができると考えました。
本書は、スタールの「特殊な政治的自由主義思想」をコミュナルリベラリズムと名付け、ギゾー、レミュザ、バラントら教条主義者および第二帝政の時代のオルレアニストらたちへの影響を分析するとともに、コンスタンやトクヴィルらの思想との親和性、相違点についても分析しました。コミュナルリベラリズムのもっとも大きな特徴とは19世紀の古典主義的自由主義の中核となったseparate spheresを拒絶したことでした。彼女は公私の分野を社会、文化的エリートによってつなぐことによって、個人の文化的、倫理的多様性を保持しうると考えました。同時にこれは世論形成に寄与する半公共的分野でもあり、後のハーバーマスのブルジョワ公共圏にもつながる考え方でした。最後にスタールが提示したフランス革命についての歴史的解釈は「自由主義的フランス革命の解釈」として知られることとなりました。
イタリア観光ガイドブック
中国とともにイタリアには55の世界遺産があり、それは世界でNo1だそうです。見るべきものがたくさんあるからこそ簡潔な情報によって旅行がしやすくなることもあります。このサイトではスタールが書いたテキストにわたしが取った写真を加えた「ロマン主義的イタリア旅行案内」をご紹介します。その際、18世紀の啓蒙哲学の時代の旅のあり方から「哲学的にイタリア旅行をする」とはどういうことだったのかについても考えてみました。よかったら実際のイタリア旅行にお役に立てください。また観光ガイドとしてだけでなく、写真とともにスタールのテキストが楽しめる内容にもなっています。